2003年に川崎フロンターレに入団し、2020年に引退するまでフロンターレ一筋で活躍し続けた中村憲剛さん。
日本代表でも活躍し、A代表キャップ数は68。
2010年の南アフリカワールドカップにも出場しました。
「止めて、蹴る」を体現する第一人者であり、流れの中でのパスの正確さはまさにトップオブトップと言っても異論はないでしょう。
憲剛さんはフロンターレ入団時はトップ下(フォワードの一列下)の選手でした。
その後、当時の監督にボランチ(さらにその一列下。ディフェンスラインの前)への転向を提案され、稀代のミッドフィールダーとして活躍します。
憲剛さんにとって、ボランチ転向はまさに『転機』
競技生活が長ければ長いほど、また、そのポジションに愛着があればあるほど、ポジション転向は大きな出来事です。
転向がメンタルに影響する選手も少なくないでしょう。
選手生活における『転機』をどう捉えるか。
どんな心のあり方で『転機』を乗り越えるか。
ミスター・フロンターレが現役中の2013年に書いた著書「幸せな挑戦」から、『転機』における心のあり方を学びましょう。
二年目の転機
2003年に川崎フロンターレに入団した中村憲剛さん。
当時はトップ下のポジションでした。
入団当時はJ2だったフロンターレとはいえ、前線の選手は充実していて、本人は「三番手か四番手」という位置づけだったと言います。
2年目に入り、当時の関塚監督(後のロンドン五輪代表監督)からボランチへのコンバートを提案されます。
中学生からずっとトップ下だったため、とまどいの気持ちがあったものの、出場機会を増やすために快く受け入れました。
後に日本を代表するボランチになったことは皆さんご存じのとおりです。
では、どのような心のあり方を持っていたのでしょうか。
与えられたポジションでどう貢献するか
ボランチを提案した関塚監督は憲剛さんにこう言いました。
「中盤の後ろから攻撃をつくっていく意識を持ってほしい」
ボランチとは守備的ミッドフィルダーの意識を持っている方も多いと思います。
監督が憲剛さんに期待していたことは、守備よりも攻撃での貢献でした。
トップ下の経験を持っている憲剛さんだからこそ、ボランチの位置から攻撃をつくっていくことを期待されていたのです。
憲剛さんは、著書でも書いてある通り、フィジカル面で強いほうではありませんでした。
もし憲剛さんが90分守備に重きを置くタイプのボランチになろうとしていたら、きっと#14はまた違った選手になっていたことでしょう。
憲剛さんはボランチという新たなポジションを与えられ、チームの期待をしっかりくみ取り、貢献していったのです。
ポジションにこだわりが強すぎる選手もいます。
こだわりを持つことは素晴らしいことである一方で、そのこだわりが成長を妨げてしまうこともあるのです。
チームスポーツであるサッカーは、そのポジションにおいてどれだけチームに貢献できるかが重要なのです。

ポジション転向は選手としての『幅』が広がる
ボランチに転向した憲剛さんはこう言います。
ボランチに転向したことで、出場機会が増えただけでなく、プレーヤーとしての幅も間違いなく広がった
幸せな挑戦 中村憲剛・著
実際、後の憲剛さんは日本代表にトップ下の選手として呼ばれている時代もあります。
それは決してボランチがダメだったということではなく、ボランチの目も持っているトップ下として期待されていたのです。
ボールを受け取ってからパス一本で決定機を作るそのプレーは、まさに憲剛さんの象徴的なプレーです。
スタンフォード大の教育心理学者、ジョン・D・クランボルツの『計画性偶発性理論』の言葉を借りれば、人生のキャリアの8割は本人の予測しない偶発的なことによって起きるのです。
人生において、偶然がたくさんの素晴らしいことを引き起こします。
憲剛さんにおいては、関塚監督がいたこと、攻撃陣は素晴らしい選手がたくさんいて自分が三番手以下だったこと、これらの偶然が、『ボランチもできるトップ下の中村憲剛』を生み出したのです。
偶然や転機を「めんどくさい」と思うのか、「幅が広がるチャンス」と捉えるのか。
それによってあなたの未来も変わるのです。
心のあり方しだいで結果は変わる
もちろん、日本代表に登り詰めるまでに憲剛さんはたくさんの努力をしてきているはずです。
しかし、努力だけを続けていたらいまの憲剛さんのようなプレーヤーになれるのでしょうか。
転機を大切にし、新しいポジションを「楽しい」と思える心があったからこそ、稀代のミッドフィールダーになったのだと思います。
つまり、結果にふさわしいメンタルを持っていたのです。
結果を出したいと思うのなら、その結果を出すにふさわしいメンタルを先に手に入れる。
ふさわしいメンタルがあるからこそ、結果がついてくるのです。
転機をチャンスと思えるかどうか。
偶然を大切にできるかどうか。
結果にふさわしいメンタルは、いまこの瞬間から変えていくことができます。
幸せな挑戦
ー今日の一歩、明日の「世界」
中村憲剛 著
